先日、「多言語話者になるための脳科学的条件」
~新たな言語の文法習得を司る脳部位を特定~
というタイトルで、記者会見が開かれました!
一言で言うと、かなりワクワクしたし、面白かったです!
内容が気になる方は、Youtube録画が公開されており、
一番下にURLを張り付けておきましたので、
是非ご覧ください。
*Hippo本部の許可はいただいています。
***
2021年3月に発表された
一年後の2022年3月
掲載誌であるScientific Reportsの2021年のneuroscience(神経科学)の分野で3,460もの論文の中からTOP 100(ランキング10位)に選ばれました!=Top 100 in Neuroscience
★掲載論文→ Enhanced activations in syntax-related regions for multilinguals while acquiring a new language
***
そして 先日、
この続きの共同研究論文が発表され、世界中で注目されています。
前回は、
外国語習得の脳科学的効用
多言語の方が二言語より脳活動が活発になるという検証結果が報告されました。
端的にまとめると、
・文法習得を司る脳部位を特定
・文法中枢(ブローカー野)=ことばをはなすときに必要な領域だと思われていたが、実は理解の時にも必要であることが分かった。そこで文法の構造を深く理解することにも関わっているのではないかとして研究を進め、それを次々と明らかにしてきた。具体的には、左下前頭回(ひだりかぜんとうかい)の背側部(ブローカー野の一部)。
・多言語の習得効果が累積して、より深い獲得を可能にするという仮説「言語獲得の累積増進モデル」が、脳科学によって明確に裏付けられた。
さらに
・予想外の結果として分かったのが、多言語話者の脳の方では「視覚野」をしっかり働かせながら新しいことばの音を聞いていた。
→過去に、上の点で思ったことを記事にしたことがあったので、いくつか紹介しておきます。
***
単語&音韻:ウェルニッケ野
文法:ブローカー野
読解:ブローカー野の下側の領域(複雑な文の意味理解に関する領域)
***
で、今回の発表を 私がわかる範囲で 以下に まとめてみました。
*ことば自体は、酒井先生がおっしゃったことばをそのまま使用させていただいています。
*会見の内容、特に質疑応答はほぼ書きましたので、長文になっておりますが、最後までお付き合いくださると大変ありがたいです。
【今回の共同研究論文で分かったこと】
・リスニングでのスコアが高い人ほど、正答率が上がる。
➡「音」に触れているのが大事!
・第三言語、第四言語を習得の際に、「文法中枢」というのが必須の領域であったことが科学的に証明された。
・十分に脳活動が出ている方は、正答率が高い。直前の脳活動を見るだけで、その人が選ぶ「回答・反応」を予測できる。
➡理解している感覚が本人に無くても、客観的に判定できる。
***
【社会的な意義】
・多言語の音声に触れることで、日本人でも言語を柔軟に習得でき、新たな言語習得でも第2・第3言語の累積効果が期待できる。
・多言語を同時に習得することの相乗効果、言語の「自然習得」という考え方と合致した。
・ノーム・チョムスキーの「言語生得説」の基礎となる考え方(あらゆる自然言語の背後にある普遍性)を、脳科学で裏付けた。
***
【質疑応答】
Q:「何歳になっても新しい言語は習得可能である」=臨界期がないはどう導き出せるか?
A:今回の実験対象は14~26歳ですが、既に通常言われている「臨界期」を終えている、成人を含んでいる人を対象にしている。さらに、半数の人は、カザフ語に対して数日で文の複雑な構造をキャッチアップして習得しているので、実験はしていないが30,40代であろうが、そこに大きな差が生じるとは、科学的に考えにくい。
Q:今回「聞いて」文法を理解することについての研究結果でしたが、「話す」ときにも同じ脳の部分が活発になるのか?第一言語第二言語について習熟している人の方が、話すことについても習熟が速いのか?
A:もちろんです。頭の中に音声がない人は、自分の中で再現して、組み替えて話すということは当然できない。文字だけで頭に入っていても、音声にしないと、発音はできない。赤ちゃんの研究で「発音」するまでに1~3年かかるが、「理解」は相当早く進んでいることが分かっている。つまり、「理解」=「リスニング」の方が先に情報を脳に蓄積して、そのアウトプットするということ。
Q:2021年の発表で「視覚野」が強く働いていたことが発見されたが、今回はどうか?
A:今回は絞り込んだ実験だったので、「視覚野」に関しては出ていない。
前回は、二言語話者と多言語話者のわずかな差ものがさないような実験だったため、「視覚野」の発見につながった。「音声」しか実験の対象にしていないのに「視覚野」が出たところが意外性があった。
さらに、多言語話者と二言語話者を直接比較すると、両方に共通している結果(今回分かった「文法中枢の背側部」)は消えてしまっていた。➡反応が見えなくなったという意味で「消えた」とおっしゃられています。
Q:スザンヌ先生が「今回の結果は常識を覆す」とおっしゃいましたが、つまり、これまでは文法中枢は「失語症」で注目されていたが、「第三言語の習得でも重要」ということが分かったということか?
A:その通り。
さらに、対象が大人ということなので、臨界期と言われていた年齢を過ぎても「母語」に使われている領域を使っているということは、人間に元々備わっていた領域を確かに使い続けているということを立証した。
=人間は無理矢理勉強して脳を駆使することはできるが、「自然習得」の際に最も重要な領域が使われ続けていることを実証した。=普遍性を実証した。
Q:臨界期のときも、今回発見された場所が活発化しているのか?
A:臨界期と今まで考えられていた頃=思春期=中高生の頃
20年ほど前に出した論文=中1の英語習いたての時も「文法中枢」が活動していた。今回もこれをもとにしている。
Q:文法が似ているから似てないからというのは、研究結果に関係ないのか。
A:カザフ語=日本語と親和性が高い。しかし、動詞の活用(ex.三単現のsなど)に関して言うと、英語にもある。つまり、言語間で近い遠いが関係ないことが、むしろ示されてた。
Q:近年「若者(特に18歳~20歳)が英語力低下」している件に関して、学校などでコミュニケーション能力など力を入れているにもかかわらず、この結果になったことに関して、要因をどう考えるか。
A:メディアの多様化などで情報過多の中、逆に「音」に触れる機会が減ったと言える。
SNSなどテキストベースでのやり取りで済ませることが増え、ローマ字読み・カタカナ読みでとらえた場合、スピーキング・リスニングの力は阻害される。➡「音」にふれよう!というところを理解してほしい。文字だけで勉強したと思ったら大間違い。
Q:文字に関して
A:今回、文字は4秒見ただけ。瞬発力が必要。やはり初めての文字/文を一瞬見ただけで論理的に考えるのはかなり負担がある。音に親しんでいると有利。
Q:「理解」「思考の構造」につながってくるのかなと考えたのですが、勉強するときに「テキスト」ベースにするか「音声(Youtubeなどの講義)」ベースにすると「理解の効率」が変わってくるのか。
A:「効率」というのは非常にわかりやすい指標であるが、脳からすれば「効率」できめているわけではない。効率を度外視した「繰り返し」の情報を脳は蓄積するのが自然。「音」から活用の変化を「繰り返し」聞くことで、初めて脳が反応し、そこに何らかの意味があると理解する。それを理屈抜きに文法とか文の形に紐づけて「意味」が入ってくる。
つまり、脳は非常に「非効率」なやり方の中で、何が「法則」なのかをうまく自動的に突き止める能力を持っている。子どもの脳は特にそれが強く発揮される。大人は、「論理的」に「効率的」に整理された情報を重視しているが、それでは割り切れないものもたくさんある。
チョムスキーは、それを人間が勝手にしてるのではなく、「自然法則」だと踏み込んだ。それは、「生物学」的法則や「物理学」的法則にも踏み込んでいるので、「横断領域」的学問のあり方として、感銘を受けている。
Q:現代、広告など色々とプロパガンダのように浴びせかけられているが、思考自体のパターンも変わるような危惧があるが、どう考えられえるか。
A:「繰り返し」聞くことで、操作される。常識として疑わなくなる。
大きな文脈なしに、SNSのような短いテキストだけを次々と膨大に繰り返し浴びせられることで、思考停止してしまい、書いた人の本当に伝えたい部分を解釈できない。言葉尻に反応してしまう。=「炎上」のメカニズム。
今、人間は人間自身で「言論空間」を破壊しようとしている。
自然に「音」にふれることは、非効率で時間がかかることかもしれないが、人間にとっては非常に重要。
メディアとしても、文字だけでなく「音声」の発信も大事。➡垂れ流しのようにAIに「津波が来ます!逃げて!」と言わせても誰も逃げなくなる。「音声」に「心を込める」ということも含めて、人間の文化的な意味合いが非常に強いということを再認識していただきたい。
Q:第二言語、第三言語を習得していく上で、どういう風に取り組んでいくべきか。
A:音に触れるのが基本。
聞いたと同時に文法中枢に働きかけるわけなので、聞くことと文法の教育を分けるべきではない。一緒にすることで、スピーキングができるようになり、その後、テキストベースで文学作品などを味わったり、それを声に出して読んでみるということが「自然」。
「音楽教育」も同じ。楽譜ではなく、まず「音」から。名人の音をしっかり繰り返し聞いてから、演奏。スピーキングと同じ。
人間というものは、自然のものから吸収し、人間らしさを見出す。それを疎かにすると、人工的なものを許容し、効率的にこなし、人間味を失ってしまう。
Q:「音」から学んでいく時に、同じものを聞く方がいいのか、バリエーション豊かに聞く方がいいのか。
A:Hippoの活動を見ていますと、同じものに繰り返し触れている。バリエーションを欲張るのは、よくない。子どもがCMソングを正確にうたえるが、つまり脳が型を身につけ、その後バリエーションに反応する。
Q:音楽が好きな人、うたうのが得意な人の方が言語習得が速いとかが関係しているということはあるのか。
A:カラオケが好きとか、これを歌にしてみようとか、そういうスイッチが入った時に多言語の能力が生かされることはあると考えられる。
➡人間の能力は「言語」が基本と考えているので、もっと広い意味でクリエイティブな人間の能力を生かせられると考えられる。将棋をさす、音楽や絵画などでも、多言語のクリエイティブな能力が生かせられると考える。
***
文法構造のところは正直かなりややこしくて
分かったような。。。分からなかったような。。。
そのうち わかるかなぁという感じで
とりあえず、今は自分の中でふわっと置いておくことにします。
これから、きっと各地で先生の書いた論文を読む機会があるので、
みんなで読めば、だんだんつかめてくるかなと思っています。
***
それはさておき、
先生の発言から 今回特に感じたことを3つにまとめてみました。
★「音」に親しんでいるのが大事!
今回はっきり出たことのうちの一つに
リスニングスコアの高かった人の方が
新しい言語を聞いたとき(今回はカザフ語)の問題の正答率が高かったとのことでした。
音に親しんでおくことが如何に大事かということです!
確かに、
日本人は「あいうえお」を習うまでに少なくとも6年間は日本語の「音」に晒されています。
そして、本人も気づかないくらい幼い時期に
食べた・食べたい・食べちゃった・・・などの変化を、
文法構造の名前も知らずにやってのけます!
つまり、
中学1年生で 突然「音」と「文字」を見せられてテスト受けさせられてって、
できるわけがないのです。
私はテストの出来は そんなによくなかったですが、
英語は好きでした。
何故だか分かりませんが
いつも教科書の付属品的に販売されていたテープやCDを買って聞いてたので、
特にしっかりは文字を追っては読めないんだけど、読めた。。。
そんな感じでテストを受けていたことを覚えています。
つまり、本文の虫食いや、並べ替え問題なら
難なくできたということです。
「音」が入ってたから解けたんだなぁ。。。と今なら思いますが、
なぜにそんなのを買っていたのか。。。
好きだったからかなぁ。。。人と話すのが。。。と思います。
そして、
日々「多言語の音」の中で生活している身として思うのが、
「母の声」が一番子どもに響くのではないかなということです。
また、同じように
自分より「ちょっと上の憧れのお兄ちゃんお姉ちゃんの声」も然りです!
「人の声」が体に浸み込む具合がやはりすごいです。
Hippoが使ってる音源は、やっぱり「人の声」。
それをみんながファミリーの活動で一緒になってうたうことで、
より一層体に浸み込み、知らず知らずに型が入っていくんだと思います。
だから、場面に合った「音/ことば」が口からふと出てくる日が来る!
そういうことなんだと思います。
ちなみに、
そんな話を過去に何度か書いていて、
二つだけ記事を張り付けておきます!
よかったら、読んでみてください。
Hippo関係者にしか分からない書き方してる頃かも?ですが。。。
ちなみに、
「ソノコ」というホームステイのストーリー音源があるのですが、
ソノコちゃんの声をしてる方が、Hippoの中にいてまして、
その方が、あるZoomに出て話していた時に
たまたま通りかかった
長男だったか。。。二男だったか。。。三男だったか。。。が、
「え??ソノコちゃん!ほんまにおるんや!!」
ってPC画面のぞき込んでました。
( *´艸`)
子どもの耳の良さったら、本当にすごいです。
***
★脳は非常に「非効率」なやり方の中で、「法則性を自動的に突き止める能力」を持っている!
この「非効率なやり方の中で」というのがミソな気がします。
実際大人は、「効率」を重視してしまう。。。
だから、子どもの方が「音」になじむのが速いのかなぁと思います。
『大人は、「論理的」に「効率的」に整理された情報を重視しているが、それでは割り切れないものもたくさんある。』
↑この件に関しても、確かに!と思います。
枠に入りきらない・・・
例えば「不規則動詞」みたいなものに対して、
大人的には、「なんでー!?(*ノωノ)」となって・・・でも覚えるしかない。。。
という感じになるのに対し、
子どもたちは、「音」の中で自然に取り込んでいくんだと思います。
さらに、
酒井先生は以前から、
・「無駄」と思われることこそ大切。
・一見無駄に見える、世間話ほど難しいものはない。
とおっしゃっていました。
そんな話も思い出しながら聞いていました。
その話題の質疑応答の時間に、
『チョムスキーは、それを人間が勝手にしてるのではなく、「自然法則」だと踏み込んだ。それは、「生物学」的法則や「物理学」的法則にも踏み込んでいるので、「横断領域」的学問のあり方として、感銘を受けている。』
とおっしゃったんですが、
この「横断領域的」というのが、またHippo的な感じだなと思いました。
「分けない」んです!
分野ごとに分けて考えているようでは、この先ダメなのではないでしょうか?
広い視野で、一つにとらわれることなく探求していくことが
これから先の世の中には必要な気がします。
実際、
今回のプレスリリースに書かれた 酒井先生の専攻は
「大学院総合文化研究科 広域科学専攻」です。
「自然」や「当たり前」に目を向ける時、
枠に囚われていては、
見えたであろうはずのものも
見えなくなる。。。
そんな気がしました。
ついでに、これは余談ですが、
数年前ある免許を取るときに勉強していたら、
「チョムスキー」の話が出てきたんですが、
ものの数分で流されました。
とっても軽い扱いで、ひどく悲しかったことを覚えています。
今回の結果は、
彼もとっても喜んでくれているのではないかなと
勝手に思っていたりします。
***
★人間の能力は「言語」が基本!
このことばを聞いたとき、
Hippoの創始者である榊原陽の「ことばと人間」という本を思い出しました。
すべてのベースは「ことば」であり、
『将棋をさす、音楽や絵画などでも、多言語のクリエイティブな能力が生かせられると考える。』
とおっしゃられていました。
確かに「多言語の音に」日々漂っていると
時々ふと
「これってこういうことか?」
とか
「この音は あの音と似てるなぁ~親戚みたいなもんかも」
とか
「~語のこの音と~語のこの音そっくり~!絶対元々同じだわ~!」
とか 色々想像をめぐらしています。
この程度の想像は大したことないですが、
子どもがこんな感じで想像力豊かにしているところを見ていると
「創造」に発展していってるのがよくわかります。
例えばですが、
今まさに三男がそうで、
また明日にでも書きますが、
「お絵描き」と「ことば」が本当につながっているなぁと思います。
絵本の想像読み?妄想読み?なんて、聞いていて 本当に面白いです。
彼の「想像力豊かな部分」をそんなのあり得ないからとか言って
潰さないように、
大切に育てたいと思います。
「想像」から「創造」へ。
確実に、色々な能力につながっているなと思います。
最近の三男の「お絵描き」に関する記事もよければ、読んでみてください。
そんな感じで、
酒井先生の話を色々思いながら聞いていました。
最後になりましたが、
Hippo本部のOKもらいましたので、
記者会見のYoutube動画URLをはらせていただきます。
どうぞ、ご覧ください!
<記者会見のYoutubeライブ配信はこちら>